二人が身も心もひとつになった瞬間、まばゆいばかりの光が二人を取り囲んだ。

それは互いが今まで見失っていたつがい(・・・)を見つけた瞬間でもあった。

 

二人の意識が遠のき、まるで禁忌の鏡の中を覗き込んだかのような

不思議な景色が二人を取り巻く。

そこは天帝の神殿の中、ナタクが太刀を抜き、悟空の首元に突きつけている場面だった。

ナタクにとって父の命令は絶対無二の命令。

その父が、目の前に存在している悟空を殺せと命じた。

 

誰よりも愛しい相手。

初めて自分の存在を無条件で認めてくれ、求めてくれた存在。

太刀を抜き、それを突きつけた自分の目の前で、

悟空はにこりと笑い、それを黙って受け入れようとしていた。

 

『お前が本当に俺を殺そうと思うなら、殺せばいい……

 お前に殺されるなら、本望さ……』

 

笑顔がそう語っていた。

一瞬でも殺意を見せた自分に、絶対の愛情と自身を微塵も揺るがす事のなかった悟空。

 

『お前を殺すぐらいなら、俺がここからいなくなればいい……

 元より俺は誰にも愛されていない存在だから。

 唯一愛してくれたお前を失うぐらいなら……

 いっそ自分が消えてしまった方がいい……』

 

ふと、ナタクの中で迷いが消えた。

 

ほんの一瞬の出来事だった。

 

ナタクは悟空の目の前で、己の身体に、その太刀を食い込ませた。

 

 

 

 

 

 

「……ナ……タク……?」

 

 

 

 

 

目の前に飛び散る無数の紅い飛沫。

それはまだ暖かく、さっきまで知っていたナタクのぬくもりと同じ。

ただ居なくなってしまったのは、その愛しいナタク自身で……

 

悟空は、傷心のあまり己を見失い、その場にいた神々をその手で殺戮しだす。

その姿は開放された魔性の力……

殺戮を何とも思わない恐ろしい斉天大聖孫悟空の力……






 

あたり一面の血の海。

その後、悟空は大罪を犯したとして記憶を封じられ、岩山に封じ込められた。

 

そして、それに加担したとされる数人の神々……金蝉・天蓬・捲簾・海王も

罰として転生の罪を課させられ、記憶を失い人間界へと堕ちていった。



500年後、4人はそれぞれ三蔵・八戒・悟浄・白龍として転生し、 

悟空は偶然にも知り合ったその仲間と、天竺を目指し旅をする。

だが、心の中ではいつもナタクの姿を捜し求めていて……

それはナタクも同じだった。

心なき人形の身体と成り果てても、その魂は悟空を求めてやまなかった。

 



永い、永い旅の末、悟空は自ら記憶を取り戻し、

ナタクの元へと舞い戻る。

そして心を失ったナタクもまた……

悟空の元へと帰る……

 

 

永い……永い……旅の夢……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた瞬間、自分の腕の中には、

疲れて眠るナタクの姿があった。

 

悟空はそれを見つめると、愛しげにナタクの銀糸の髪に口付けを落とす。

 

 

「俺は、ずっと、ずっとお前を探してたんだ。

 お前だけを……ずっと……」

 

 

悟空瞳にうっすらと涙がこみ上げる。

その涙を指でぬぐうように、目を覚ましたナタクが手をさしのべる。

 

 

「何、泣いてんだ? お前……

 ほんっと泣き虫だな……お前って……」

「だって、ナタク……俺、ずっとお前んこと探して……

 好きで、好きでしょうがなくって……」

 

 

しようがないと言わんばかりに苦笑いを浮かべると、

ナタクは黙って悟空の身体を抱きしめた。

 

 

「俺だって……お前と同じだよ……

 ずっと、お前に会える日を夢見てた。

 そしてもし、この先お前と離れる事になっても……

 俺はずっとお前を信じてる。

 信じてお前を待ち続ける……何年でも……何百年でも……

 たとえどんな姿に変わり果てても……」

「……うん……俺もぜってぇーお前を探し出す!

 必ずだ! んで、またひとつになろーな!

 あの伝説みたいに……!」

「……うん……」

 

 

――――― 銀糸伝説 ―――――

 

 

地に落ちた金の翼は、その双翼である銀の翼を探し出した。

翼が一対に揃う時、それは絶大な力を解き放ち、

この世を崩壊にも幸福にも導く事が出来る。

それが凶と出るか、吉と出るか……。

 

結果は出会った二人だけにしかわからない。

 

ただ変わらないのは……

この二人の愛だけ……

 

……伝説の如く、永遠に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪あとがき≫
長らくお付き合いくださいまして、本当に有難うございましたm(_ _ ;)m
私はナタクへの愛だけで書き上げたったカンジです。
この作品を読んでいて、深い意図に気づいてくださるのは、
おそらくよっぽどのナタクフリークの方だけ……そう思って、
お節介な解説をおひとつ〜♪
ナタクに向けられる李塔天(李パパ)の執着心は異常で、
そこで、おそらく彼には何者にも理解しがたい愛が、内々に存在しているのでは
ないかと思い、この物語に行き着きました。
そして、ナタクと悟空も、何かしらの深い繋がりがあるのではないかと思い、
不思議な力を持った鏡の魂が割れてしまった時の、
一対のつがいだという設定にたどり着いたわけです;
要は、二人の力がひとつになれば、この世を思うがままにできる
恐ろしい力が秘められているという訳ですね……。

まだ、最遊記の物語自体は未終了ですが、
ナタクと悟空の間には、いつも何らかの結びつきがあって欲しいという、
私の個人的な欲望でもあります;(まぁ、原作の中国文学では、二人は戦うのですが;)
二人はひとつ……いい響きじゃあありませんか……(≧∇≦)~~*
私の中での二人はまさにこれ!!
いつもひとつです!!!★★
そして、浄玻璃の鏡というのは、仏教の中に出てくる、
閻魔大王様が持ってる鏡のことです。
これは過去しか映せないのですが、本当は未来も映せるのでは??
というアバウトな想像から話のネタに使わせていただきました。
伝説の中の本物はどうかわかりませんので、ご了承を……。
何はともあれ、最遊記外伝!!
結果は知れているけど、早く再開して欲しい!!!!
これはナタクフンァンとしては切実な願いです!
先生お願いです〜〜〜〜〜m(_ _)m

これからも私はナタクを熱〜く応援してまいりますvv
皆様も、お付き合いくださいませねっ(⌒∇⌒)ノ””

 

 





 銀糸伝説        其の九